ヤン・ボイテル氏は、スイス・アルプスの山、クライネス・ネストホルンのライブ映像を眺めていた時、山から聞こえてくるきしむ音やゴロゴロという轟音(ごうおん)が次第に大きくなっていることに気付いた。ボイテル氏は作業の手を止め、音量を上げ、気が付くとその映像に見入っていた。
「画面全体が爆発した」
ボイテル氏はそう表現した。山岳監視を専門とするコンピューター技術者のボイテル氏が目撃したのは氷河の崩落だった。5月28日、何百万トンもの氷と岩の雪崩が斜面をなだれ落ち、谷間にある数百年の歴史を持つブラッテン村をのみ込んだ。
相次ぐ岩石なだれが氷河の上に降り積もり、氷にかかる圧力が高まったことにより、氷の融解が早まり、氷河の移動速度も加速した。やがて氷河は不安定になり、岩盤から押し出される形で崩落した。それは突発的で、激しく、壊滅的な崩落だった。
その根本的な原因の解明には時間がかかるだろうが、スイス連邦工科大学チューリッヒ校の氷河学者、マティアス・フス氏は、気候変動が関与している可能性が高いと指摘する。気温の上昇により、山々をつなぎとめている氷が溶けるためだ。この問題は、地球全体の山々に影響を及ぼしている。
雪や氷に覆われた山々は、本質的に気候変動の影響を受けやすい。
非常に高い山々には氷で満たされた亀裂が刻まれている。これは永久凍土と呼ばれ、山々をつなぎとめる役割を果たしている。そのため、この永久凍土が融けると、山が不安定化する恐れがある。
また氷河も恐るべき速さで解け続けている。特にアルプスやアンデスなどの地域でその傾向が見られ、これらの地域では将来的に氷河が完全に消滅する可能性すらある。こうした太古の氷の川が姿を消すことにより、山肌がむき出しになり、さらなる落石を引き起こしている。
近年、アルプスでは氷や永久凍土の融解により、いくつかの大規模な崩落が相次いでいる。
2022年7月、異常な暑さにより大規模な融解が起こり、イタリア北部のマルモラーダ氷河から約6万4000トンもの水、岩、氷が崩れ落ちた。そして、その後に発生した氷の雪崩により、ハイキングをしていた11人が死亡した。
また23年には、スイスとオーストリアの国境にあるフルフトホルン山の山頂が永久凍土の融解によって崩落し、10万立方メートル以上の岩石が谷底に押し流された。
溶けた氷河は湖を形成することもあり、その湖があふれると堤防が決壊し、水や土砂が山腹を流れ落ちることがある。
23年にインドのシッキムで発生した永久凍土の地滑りにより、大きな氷河湖の堤防が決壊して壊滅的な洪水が発生し、少なくとも55人が死亡した。
また昨年、米アラスカ州ジュノーで氷河湖が決壊し、破壊的な洪水が発生した。その後同市では、同様の洪水が定期的に発生している。
https://www.cnn.co.jp/fringe/35235968.htm...
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