理論的に予言されていた「時間結晶」という新しい物理現象を実験で作り出すことに、筑波大学や量子科学技
術研究開発機構が参加する国際研究グループなど2グループが相次いで成功した。時間結晶は物質が時間とと
もに周期的にパターンを変える現象のことだ。筑波大学などが実験で使ったのは量子コンピューター向けなど
に開発中の特殊なダイヤモンド結晶で、常温でも働く利点がある。今回の実験成功で量子コンピューターや量
子センシング技術への応用に弾みがつくとみている。
■2012年に米国のノーベル物理学賞受賞者が提唱
時間結晶(Time Crystal)は、時の流れが結晶化して止まるというSFに出てくるような話で
はない。水が氷になるように、物質を十分に冷却すると結晶が生じる。結晶は原子が空間の中で周期的なパ
ターンで並んだ状態だ。これと同じように原子の集団の持つ物理量が、空間ではなく時間が流れる方向で自発
的にパターンをつくる可能性が考えられる。この時間結晶のアイデアはノーベル物理学賞受賞者である米国の
フランク・ウィルチェック博士が2012年に提唱した。
同博士が考えた時間結晶では、物質が安定した平衡状態で、エネルギーの入力なしで、一定周期で初期状態
から次の状態に変わり、また初期状態に戻るという振動を繰り返す。これが本当だと、外部からエネルギーを
加えなくても振動が続くことになり、物理学の常識を大きく変える。同博士の提案は当時大きな注目を集めた。
ただ、今回、筑波大などが実験に成功した時間結晶は、ウィルチェック博士が提唱したタイプとは異なる。
米カリフォルニア大学バークレー校のノーマン・ヤオ准教授が2016年に提案した時間結晶を作り出すための
「第2の道」に沿ったものだ。
■特殊なダイヤモンドで「時間結晶」を実現
ヤオ准教授は原子の集まりが非平衡状態ならば、周期的に外部から駆動される場合に時間結晶が実現する可能
性があると主張した。それというのも、2015年6月に、米カリフォルニア大学バークレー校の大学院生だった
渡辺悠樹氏と東京大学物性研究所の押川正毅教授が、平衡状態から粒子の集団が時間的に振動することはない
ことを数学的に証明。ウィルチェック博士が提案したタイプの時間結晶は現実には存在しないことがわかった
からだ。
軟らかいゼリー菓子に例えて説明すると、ウィルチェック博士が最初に提案した時間結晶は、冷えたゼリーが
ひとりでに振動を始め、一定の周期で揺れ続けるようなもの。これに対してヤオ准教授の時間結晶は、ゼリー
を外から揺さぶったときに、予想される周期とは異なる周期でゼリーが振動し続けるというイメージだ。今回
相次いで実験が成功したのは、この非平衡状態での時間結晶だ。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO17416200X00C17A6...
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