体をくねらせて滑らかに這うヘビの驚くべき秘密が明らかになった。ウロコの表面が極めて薄い潤滑油でコーティングさ
れていたのだ。
この発見は、2015年12月9日付の「Journal of the Royal Society Interface」誌で発表された。研究論文によると、コー
ティングの厚さはわずか数ナノメートルで、人間の髪の毛の直径の数万分の1しかないという。ヘビの不気味な滑らかさを
見事に解明しただけでなく、新しい工業用潤滑剤やコーティング剤のヒントとなり、ヘビ型ロボットのデザイン改良にも
つながると期待される。
米アトランタ動物園の爬虫類・両生類学者であるジョー・メンデルソン氏は、「田舎のお祭りで、油を塗ってぬるぬるに
したブタを捕まえるコンテストがあるでしょう?この研究は、それと同じようにヘビが自分の体に油を塗っていると言っ
ているのです」と説明する。なお、メンデルソン氏は今回の研究には参加していない。
油にまみれたぬるぬるのヘビという考え自体も面白いが、今回の発見は、ヘビが体をくねらせてさまざまな場所を移動で
きる理由との関係でも重要だ。なにしろヘビは、足もないのに木に登り、灼熱の砂漠を走り、泳ぎ、木から木へ「飛び移
る」こともできるのだ。何百万年におよぶ進化の結果、ヘビの体のいちばん外側のウロコがこれほど優れたものになって
いなければ、驚くべき動作のどれ1つとしてできなかったはずだ。
ヘビのウロコには、一目瞭然であるにもかかわらず、長年説明がつかなかった特徴がある。腹側のウロコは、背側のウロ
コに比べてはるかにすべすべで滑らかなのだ。障害物につっかえないようにする必要があることを考えれば、進むために
必要な最低限の「足がかり」があるとはいえ、腹側のウロコがすべすべで滑らかなのはさして不思議なことではない。
けれども、科学者が高解像度顕微鏡で調べてみても、腹側のウロコと背側のウロコの構造に違いはなかった。ということ
は、何らかの物質がウロコの表面をコーティングして滑りやすくしていることになる。それはどんな物質だろう。
■極薄のコーティング
米オレゴン州立大学の化学工学者ジョー・バイオ氏は、ドイツのマックス・プランク高分子研究所のトビアス・ヴァイド
ナー氏との共同研究チームを率いて、カリフォルニアキングヘビの脱皮殻を念入りに調べた。彼らはヘビの皮の表面のす
みずみまでレーザーを照射して、ウロコの表面分子がレーザー光線をどのように反射・散乱するかを調べた。この技術は
通常、マイクロエレクトロニクス部品の検査に用いるものだ。
「ふつうならこんなことはしません」とバイオ氏は言う。「私たちがヘビのウロコを持ち込むのを見た物理学者たちは、
『いったい何をするつもりなんだ?』と内心で思ったことでしょう」。観察の結果を他のテストの結果と組み合わせたと
ころ、極薄の脂質(生体内で脂肪の形で存在する炭化水素鎖)の層がヘビのウロコをコーティングしていることが明らか
になった。
さらに、キングヘビは腹側と背側で別々の潤滑油を使っているようだった。ヘビの腹側のウロコをコーティングする脂質
は、背側よりはるかに滑らかで整然とした層を作っている。研究チームによると、プロの技術者にもこれほど巧妙なコー
ティングはできないという。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO95196050W5A211C1...
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