「すごい!数値が振り切れたぞ!めちゃくちゃ高い」
分析結果を見守っていた研究者が叫んだ。
深海で噴き出す熱水から「金(きん)」の回収に成功したことが確認された瞬間だった。NHKは2年以上にわたって、この金回収プロジェクトに密着。その手法とは“藻“に金を吸着させて回収するという意表を突くものだった。ユニークなプロジェクトの舞台裏に迫った。
●「藻」で「金」をとる
「藻を使って深海の熱水から金を回収しようとしているのですが、興味ありませんか?」
2021年5月、横浜市内の喫茶店で私に語りかけたのは海底鉱物資源のスペシャリスト、海洋研究開発機構の野崎達生さんだ。
「おもしろいけど、そんなことできるのかな?」
記者としての直感が働いたが、同時に無謀な挑戦だとも思った。
しかし、野崎さんが言うからには、なにか勝算があるに違いない。
2年以上にわたるNHKの密着取材がこの日から始まった。
●深海から世界トップクラスの金が噴出
東京・都心から南へおよそ400キロ。青ヶ島沖の水深700メートルの深海には海底下のマグマによって温められた270度ほどの高温の熱水が噴き出す”熱水噴出孔“が2015年に発見されている。
熱水噴出孔自体は伊豆諸島や沖縄など、ほかの深海でも数多く見つかっていて、それほど珍しいものではないが、これまでの研究から青ヶ島の熱水噴出孔の周辺の岩石には平均で1トンあたり17グラムと、ほかよりもずば抜けて高い「金」が濃集していることがわかっている。
●熱水噴出孔の“養殖”に挑戦するも…
この青ヶ島に目をつけたのが野崎さんだった。原点は2010年にさかのぼる。当時、沖縄の熱水活動域を調査するために、地球深部探査船「ちきゅう」を使って水深1000メートルの海底を掘削したことがきっかけだった。掘削から4か月後、再びその場所を訪れると、高さ4メートルにもなる熱水噴出孔が偶然できていたのだ。これを見た野崎さんは「海底に穴をあけておけば、人工的に熱水噴出孔を作り出せるのではないか?」とひらめいた。
熱水噴出孔には高濃度の金属鉱物が含まれているため、人工的に作り出すことができれば新たな鉱物資源として利用できるに違いないと考えたのだ。2016年、沖縄の深海で熱水噴出孔を“養殖”するという前代未聞のプロジェクトが実施された。狙いどおり熱水噴出孔はできた。しかし、その成分を詳しく分析してみると、鉄や銅、亜鉛などがほとんどを占めていた。これでは採算がとてもあわない。
「金でもないとやはり厳しい…」
そう感じていたところ、高濃度の金が濃集している青ヶ島のことを知ったという。
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